監査法人に対する検査結果を読む
金融庁の公認会計士・監査審査会(CPAAOB)が、2月27日に「監査の品質管理に関する検査指摘事例集」を公表しました。
http://www.fsa.go.jp/cpaaob/shinsakensa/kouhyou/20080227.html
正直これを読むと、このような調子で内部統制監査が果たして実施できるのだろうか?という気になってきます。それ以上に、監査法人ですらこんな状況なのに、果たして経営者が自ら内部統制の評価を適切に実施することなどできるのだろうか?という懸念もあります。
一方、これらの指摘事項がすべて解決するような監査を行ったらJ-SoXはどうなるか?ということも考えておきたいと思います。特に「5.監査業務の実施」については、監査を受ける立場の上場会社にも関係してくることですので、是非目を通しておいていただければと思います。
「(1) リスク・アプローチに基づく監査計画の立案② 重要な虚偽表示のリスクの評価」については、内部統制報告制度への対応にも影響を及ぼす可能性があります。というのも、上場会社側に重要な内部統制上の欠陥があると、もはや財務諸表監査を実施することが事実上難しくなるという判断を監査人側がせざるを得ない状況に追い込まれてしまう可能性がよりいっそう高まるからです。
「当監査事務所の監査実施者は固有リスクの評価を更新していない。」については、監査人独自で情報を収集し、独自で判断することになるとしても、その際に上場会社側が自ら経営環境の変化に応じて虚偽記載リスクを評価していればその結果を参考にするということは十分にありえます。逆に、上場会社が経営環境等を踏まえた虚偽記載リスクの評価を適切に行っていないとすれば、監査人としても監査リスクが高まるので、監査を受託するかどうかという判断をする際に問題となる可能性もあります。
「③ リスク対応手続の決定」には、「内部統制が有効ではなく、統制リスクが高いと評価しているにもかかわらず、内部統制に依拠した監査手続を実施している。」と書かれていますが、経営者自身による内部統制評価の結果、重要な欠陥があるとして内部統制が有効ではないと判断された場合に、監査人は内部統制に依拠した監査を実施できないということが徹底されるということを意味します。そして、例えば、販売プロセスや購買プロセスにおいて内部統制に依拠せずに実証テスト中心に監査手続を実施ということになると、かなりの時間がかかるか、または事実上監査実施が不可能ということにもなりかねません。もちろん、J-SoXの場合は内部統制全体にかかる有効性ですし、上記は部分的に有効ではないという場合も含むので、一概には言えませんが。
従来から監査人による内部統制の評価が不十分、または評価した結果依拠できない水準であるにもかかわらず、依拠できるものとして実証テストを十分に行っていないということはあったのではないか。ほんの数年前までIT統制をほとんど評価しないで内部統制に依拠した監査を実施していた時期がずっと続いていたことからも想像できます。でもそれではまずいということで、IT統制の評価を数年前から本格的に実施し始めたということは皆さんもよくご存知かと思います。つまり、この文言は、財務諸表監査がますます厳しくなり、時間もかかるようになることを意味します。そうならないようにするためにも、上場会社側も内部統制をきちっとしておく必要があると思います。
「(2) 経営者等とのディスカッション」については、監査人側が経営者ときちっと話をしなさいというのが趣旨ではありますが、裏を返せば、経営者も監査人とディスカッションできるよう、「企業及び企業環境の理解」「不正及び誤謬に起因する財務諸表の重要な虚偽の表示の可能性」についてディスカッションできるようにしておかなければならないということでもあります。そのためにも、内部統制構築の基本方針、基本計画策定の段階で、これらをきちっと把握・整理しておくことが重要ではないかと思います。
「(3) 継続企業の前提」について、「継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象等が存在している被監査会社について、当監査事務所の業務執行社員は、経営計画の実行可能性に関する詳細な検討を行っていない。」とありますが、これは上場会社側からすれば、そもそも経営計画が適切に作成されておらず、実行可能性も明確に説明できない、という状態であるならば、監査人は監査上の結論を出せないため、最悪監査意見が出ずに上場廃止になる可能性もあるということでもあります。つまり、継続企業の前提に重要な疑義のある子会社等については、まずきちっと経営計画を作成し、親会社においてもその実行可能性を評価し、監査人に説明できるようにしておく必要があるということです。
「今後の事業計画の実行可能性の検討や増資資金の入金の確認等を行ったとしているものの、再生スキームや支援を引き受けるとされている主要株主について把握していないなど、継続企業の前提に関する注記の内容について十分な検討を行っていない。」についても同様です。上場会社としては、継続企業の前提の注記に係る内部統制を整備しておかなければならないということです。
「(4) 会計上の見積りの監査」については、もちろん、監査人側がそもそも監査手続を実施していないケースと、監査手続を実施しようとしたが、上場会社側の内部統制の不備、つまり見積の根拠がきちっと示されていない(文書化されていない)ために、監査手続の実施が不能というケースがあるかと思います。今までは、会社側の資料が少々不明瞭であったり不完全であっても監査人が許してくれたということもあったかもしれませんが、今後は、上場会社側から見積もりの根拠がきちっと示されない限り、監査人は重要な監査手続を実施できず、監査意見を出せないということになると思います。
以下、きりがないのでやめておきますが、要は、監査人のスタッフ不足、能力不足や怠慢で監査手続が実施できない場合はともかく、上場会社側の内部統制の不備によって監査手続が十分に実施できない場合には、ことごとく監査意見不表明という事態が起きうるということを念頭においておく必要があるということです。そして、このような監査手続に耐えうる内部統制の整備及び内部統制の証跡の確保を考えておかないとならないということです。
この指摘事項はそういう意味で、上場会社が構築すべき内部統制のレベル感を示すものとしても注目できると思います。
監査業界の恥をさらすようなものではありますが、敢えてご一読をお勧めしたいと思います。
この調子で内部統制監査に係る検査を実施されるとなると、内部統制監査において相当証拠固めをしなければならず、そのために、できるだけ客観的な根拠、文書を上場会社に対して求めるようになり、結果として「11の誤解」に書かれているような金融庁の望むような方向性には行かないだろうというように考えている人が少なくないと思いますが、どう思われますでしょうか?
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