ロ短調ミサ曲(15)~ルター派の礼拝とラテン語ミサ
今日、10月31日は、宗教改革499周年記念日。
ルターは、カトリックのミサの在り方にも疑問を投げかけた。中でも、ドイツ語による聖書朗読と説教、そしてドイツ語による讃美歌(コラール)の導入と、会衆と聖職者の関係の根本的な見直し、さらに聖書に由来しない民間伝承の要素をとりいたものや、金儲けのための要素を排除した。しかし、それ以外のミサの形式については、カトリックで行われていたものを基本的には踏襲している。また、ラテン語を排除することも実は行っていない。
ということで、ロ短調ミサ曲の構成要素(ミサ通常文)についても、ルター自身は何一つ排除していない。それどころか、いまでもルーテル教会の式文にはミサ通常文は残っている(ただし各国語で。ラテン語も否定はされていないようだ)。
さて、礼拝の形式という点では、ロ短調ミサ曲は2つの部分からなる。
Kyrie-Gloria-Credo という常に礼拝で行われる部分と
Sanctus-Hossana-Agnus Dei の聖餐式部分だ。
聖餐式は、プロテスタント教会でも昔は毎週の聖日に行われていたようだが、今では月1回とか年4回とかしか行われないケースも多いようだ。だから普段の礼拝は、Kyrie-Gloriaは歌で、Credoは必ずしも歌でなく全員で唱和、またはニカイア信条ではなく簡潔な使徒信条が唱和される。
もっと普段だとミサ曲の代わりに讃美歌を歌うこともあったようだ。マタイ受難曲の冒頭のソプラノコラールは、ラテン語のAgnus Deiの代わりに歌われた讃美歌。
ルターの「ミサと聖餐の原則」によれば、Kyrie-Gloriaがあって祈りと聖書朗読があって、説教の前後いずれかでCredoが歌われ、または唱和され、というのが基本的な流れで、聖餐式がある場合には、パンと葡萄酒が準備されSanctusが聖歌隊によって歌われ、Benedictusを歌っている間にパンと杯を高く掲げ、主の祈りが読まれ、Agnus Deiが歌われている間にパンと杯が配られる、とそんな感じで使われる様だ。
バッハの時代のライプツィッヒの教会ではどうだったのかは不勉強でわからない。
このあたりについて、バッハのミサ曲とも絡めて解説している論文を見つけたので紹介しておく。
<ミサ>M.ルターとJ.S.Bach
「ミサと聖餐の原則」(1523年)と「ドイツミサと礼拝の順序」(1526年)
池島与是夫著
http://atlantic2.gssc.nihon-u.ac.jp/kiyou/pdf16/16-267-277-Ikejima.pdf
サブタイトルにもなっているこのルターの二つの著作は、「ミサと聖餐の原則」がラテン語の礼拝、「ドイツミサと礼拝の順序」がドイツ語による礼拝のやり方をまとめたものである。「ドイツミサと礼拝の順序」には楽譜もついていて、当時どうやって歌ったかがわかる。Kyrieだけはラテン語の形で残されている。なかなか興味深い論文なので、興味のある方にはぜひ目を通していただきたい。
さて、現代の日本福音ルーテル教会の式文はどうなっているのか。これに興味のある人は、以下の本を参考にしてみてはどうか。
聖卓に集う 日本福音ルーテル教会礼拝式書解説
前田貞一著 教文館
(Amazonでも購入可)
実際のルーテル教会の礼拝がこの通り行われているのかは出席したことがないのでわからないが、ルター派の礼拝にもカトリックのミサの様式の痕跡が残っているというのは、日本の多くのプロテスタント教会(どちらかというとカルヴァンの流れをくむものが多いか)の礼拝のイメージからするととても新鮮で驚きだ。また、ロ短調ミサ曲がルター派のものではなくカトリックのための音楽だとも必ずしも言い切れない、ということを知る上でもよいかもしれない。
ロ短調ミサ曲が実際に礼拝で使われたという証拠はないが、礼拝と結び付けて考えてみることは決して無駄ではないと思うので、宗教改革記念日に書いてみた。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント