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2012/07/10

ヨハネに悩める17~第13曲(2)二度と半音階と付点

前回は、歌詞の面から第13曲を考えてみました。今回はバッハの音楽の面から考えてみることにします。

楽譜を見ていて気がつくのは、二度でぶつかる不協和音、半音階、そして付点音符(付点8分音符と16分音符の組み合わせ)が多用されているということです。

付点音符といえば、軽快さを表す場合と、正反対にむち打ちとかいばら、とげが突き刺すとかいうことを言い表す場合とがあり、当然のことながらここでは後者の付点音符です。バロックの基本的な付点の弾き方というのはあるのですが、それとは違うレイヤーで弾き方が両者で全く異なるというのは当然のことです。重みのある鋭さとでもいいましょうか、ペテロの苦悩、重苦しい雰囲気も出さなければなりません。しかし、もたもたするような重さでではなく、鋭さも必要だと思います。もちろん、勇ましい音楽では決してないので(むしろ、ペテロの心の弱さを表現しなければならない)、そうならないよう気を付けなければならない。まさに音楽性とボウイング技術が試される付点音符です。

問題は、付点4分音符+8分音符及び4分音符+8分休符+8分音符という組み合わせのとき、8分音符を16分音符として弾くのか、8分音符としての音価を保つのかという点と、8分給付があるケースとないケースで弾き分けるべきなのか、両者は同じ意味なのかという点です。ここは解釈の分かれるところだと思いますが、8分音符は16分音符ほど短くはないが8分音符よりは短く(つまり前の音符または休符の音価を長めにとる)、8分休符の有無は明確に弾き分ける、というのが一つの解ではないかと私は考えています。

8分休符の有無を明確に弾き分けるというのは、私が実際にアンサンブルの中で弾いてみてそう思いました。8分休符の有無については、一見同じことを統一性がなく書かれているようにも見えるのですが(実際にそういうことは少なくない)、ことこの曲については、意識して書き分けたようにも思えますし、バッハは割と弾いてほしいようにきちっと各タイプの作曲家でもあるので、両者が同じことを言っていると決めつけるのは少々危険だと思ったことがきっかけですが、実際に和声を意識して弾いてみると、敢えて書き分けた意味が分かるような気がしたのです。2つの声部が音符の初めから2度でぶつかっているところと長い音符の途中で2度でぶつかるところでは、弾き方が違います。また、2度の不協和音をどの程度強調する(強くだけでなく長い時間意識させる)か、ということも意識して弾くと、ここは音価通り弾くべきか短めに切ってもいいかということもなんとなくわかります。

ベーレンライター版スコアをお持ちの方は、通奏低音パートに65という数字が書いてあるところの上声部パートに注目していただくとよいと思います。まず、冒頭2拍目に65と書いてあります。1stVnは、Eの4分音符前打音にDの2分音符です。前打音は4分音符ということでさほど短くありません。Dが出てくるのは2拍目の裏あたりでしょう。2ndVnはCisの付点四分音符です。65はこのDとCisが同時に鳴っている状態(バスのFisの6度と5度上)で、典型的な不協和音です。もし、ここで2ndVnが付点四分音符を四分音符分しか伸ばさなかったとしたら、DとCisが同時に鳴ることはありません。これでは意味がありません。

17小節にも似たようなところがありますが、ここはすでに歌が入っていてしかもPであることや、17小節の1拍目の四分音符はここから始まるフレーズの最初であるとともに、前奏の最後の音でもあるというようなこともあるのでしょう。ことさら弦楽器の2度を強調する必要がなかったため、4分音符+8分休符になっているのではないかと思います。

実際には和声だけでなく、他の声部や歌との関係もあって一筋縄にはいかないのですが、書いてある通りの音価で弾く効果というのは確実にあるような気がします。

付点というと、ボウイングの都合(弓を元の方に戻す)で長い音が短くなってしまうということもあるのですが、そこは、後ろの短い音は弓の先でアップで弾き、その勢いで元の方に戻るとか、何度か細かい付点音符を弾く中で徐々に元の方に戻していくとかいうテクニックを使って、最初の長い音をできる限り音価一杯伸ばすという工夫が必要になるでしょう。また、付点四分音符+8分音符の組み合わせと付点8分音符+16分音符の組み合わせでは、8分音符より16分音符の方がより短く鋭くなります。8分音符は弓の先でもいいですが16分音符を弾く時には弓が元にもどるようにしたいものです。この付点8分音符の弾き方も難しいのですが。。

さらに2度で「ぶつかる」音は、基本的にはノンヴィブラートで弾きたいものです。せっかくの不協和音なので、ヴィブラートをかけてもやもやにしないのがよいかと。でもぶつけた後は軽くヴィブラートでもよいかもしれません。

このように、この曲は2度を中心とした不協和音というのがペテロの苦悩であり、付点が痛みを表すということになると思うので、上述したようなことは結構こだわってもよいのではないかと個人的には思います。

これとは別に、バスを見ると、例によって冒頭から下行する半音階が登場します。これも、ペテロの苦悩、不安などを表す常套手段です。そして、2nd Vnもよく見ると、バスと並行に下行する半音階になっていることがわかります。どうしても付点音符に目を奪われがちですが、この半音階及び不協和音に注目すると、付点四分音符以上の長い音をどう弾くかが結構大事なのではないか、ということを考えるようになります。

私としては、例のホセア10.8を引用した歌詞の場面、47-59小節がとても不思議な感じがします。不協和音オンパレードなのですが、長調になりかけのような感じで何か美しい。「山よ、丘よ」と願う時の心境とはどんなものなのでしょうか。。。

2ndVnを弾いていると、旋律っぽいのが少ない代わりに、不協和音をはじめとする和音の性格付けに重要な役割を果たしたりできるのがとても楽しく、やりがいを感じます。

まだまだ語るべき点は多いと思うのですが、次のコラールに進むことにします。(つづく)

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