« ヨハネに悩める14~第11曲(2)マタイと比較する | トップページ | ヨハネに悩める16~第13曲(1)ペテロの嘆き »

2012/07/08

ヨハネに悩める15~第12曲「ペテロ、ついに三度知らないという」

いよいよ前半のクライマックス。ペテロの否認の最終場面です。

ペテロの否認の場面は、4つの福音書のすべてに登場します。そのこともあってか、ペテロの否認を語る際には、4つの福音書をいわばちゃんぽんにするケースが多いようです。バッハのヨハネ受難曲もご多分に漏れず、ヨハネ、マタイ、ルカの3福音書から持ってきています。それもあってか、ヨハネ福音書の文脈だけからは出てこないようなアリアやコラールの歌詞も登場します。ということで、この場面を解釈するためには、ヨハネ以外の他の福音書も念頭に置いておくことが重要かと思います。

ペテロは大祭司の僕や下役にまぎれて立って火にあたっていた。すでに10曲で言ったことをもう一度繰り返しています。そして周りの人々から「お前もあの男の弟子のひとりではないか」と問いただされます。「Bist du nicht・・・」と合唱で歌われる部分ですが、いかにも何人もの人々から繰り返し繰り返し、畳み掛けるように問いただされている様子がバッハの音楽からもうかがい知れます。これだけ何度も言われたら、ただでさえ不安になっているペテロの心はますます追い詰められたような感覚に陥るだろうな。ここは、合唱とはいっても、群衆ではないし、「十字架につけよ!」みたいな熱狂的なところでもないので、むしろ、言葉がはっきり聞こえて、同じことが何度もいろいろなパートで歌われているということがわかるように歌った方が効果的なのではないかと思います。

そして2度目の否認「Ich bins nicht.」 1度目と同じ音型なのですが、2度上がっています。1度目より強い調子で高揚して否定したのかもしれません。

最後に例の耳そぎ事件の被害者の親族から追及され(ルターは、その親族が他のものよりも少しきびしくペテロを攻めたと解釈しています)。ついに三度目の否認をし、そして鶏が鳴いた。そこでの通奏低音の特徴的な音型は鶏の鳴き声のようにも思えます。ヨハネ福音書はここで終わりなのですが、バッハのヨハネ受難曲では、そのあとにマタイ福音書から「イエスの言葉を思い出した。そして外へ出て、激しく泣いた」という部分を付け加えています。「激しく泣いた」の部分は、アリオーソ風になっており、しかも2度繰り返されています。通奏低音を見ると、またもや半音階で上がったり下がったり。心の動揺と不安、恐怖、まさに罪を犯したと自覚した人間の心理を見事に描写しています。このセリフの本家マタイ受難曲よりも劇的な表現だと思います。

なぜ、わざわざマタイから付け加えたのか。真相はわかりませんが、ルターの以下のような解説は、参考になると思います。(オリブ山で ルターの「主の受難の説教」 石橋幸男訳聖文社)

「まことの悔い改めとはなんであるかを学ぼう。ペテロは、「激しく泣いた」。このようにして、悔い改めは始まる。心がほんとうに罪を認め、心からそれを悲しまねばならない。そして、わたしたちが罪を喜んだり、愛したり、また、その中に生きることを止めなければならない。神のみ心に従わず、罪を犯したということが、わたしたちにとって、心にしみる苦痛の種とならなければならない。」(中略)

「さてわたしたちの本性と罪の性質によれば、罪はわたしたちをおびやかし、神の怒りでおどし、ペテロとユダの場合が共にそうだったように、わたしたちの心を苦痛で満たさざるをえない。(中略) ペテロの苦しみは、非常なものであったから、仲間から逃れて、溢れ出て尽きないほどに涙を流しながら、悲しみに暮れざるをえなかったのである」

そして、第13曲のアリアというのは、まさにそんな苦痛に満ちたペテロの心境を歌ったものだといえます。

第8曲からペテロの否認の場面全体を通じて、何度も「わたしたちの罪」ということが繰り返しクローズアップされていることに気づきます。このような観点から、アリア、そして続くコラールを考えてみたいと思います。(つづく)

|

« ヨハネに悩める14~第11曲(2)マタイと比較する | トップページ | ヨハネに悩める16~第13曲(1)ペテロの嘆き »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/32419/55144938

この記事へのトラックバック一覧です: ヨハネに悩める15~第12曲「ペテロ、ついに三度知らないという」:

« ヨハネに悩める14~第11曲(2)マタイと比較する | トップページ | ヨハネに悩める16~第13曲(1)ペテロの嘆き »