ブリュッヘンのハイドン(2)~真打、豊嶋さん登場
15日、20日とブリュッヘン指揮新日本フィルのハイドンを聞きにいく。
15日の感想は省略。第1日目のほうがよかったな。渡邉順生さんのフォルテピアノを除いて。
そして20日。コンマスが豊嶋泰嗣さんに。この人はかなり期待が持てる。
実際に演奏が始まると、これまでとは全然違う世界が展開。もっといえば、次元が違う世界。ブリュッヘンが求めるハイドンというのは、こういう次元の演奏ではないかと思う。アーティキュレーションははっきりしているし、三拍子系、6/8,9/8なども重くならない。高度な小技を随所にちりばめている。豊嶋さんは、恐らく指揮者からいちいち指示されなくても、楽譜から何をすべきかをちゃんと読み取って、極めて高いレベルのボウイング技術を使って表現している。ハイドンの音楽は、もちろん、軍隊や時計や驚愕のような大掛かりな仕掛けや大技も面白いが、そんな曲は全体からすればごくわずかで、多くの曲は、コネタ、小技をあちらこちらにちりばめているところに面白さがあると思う。しかし、それを表現するには、何も指示がない楽譜からそれを読み取り、かつ、それを完璧にこなす高度なボウイング技術が必要。
豊嶋さんのボウイングから学んだことは、アーティキュレーションを明晰にし、小技をちゃんと聞こえるようにするためには、デクレッシェンドを効果的に使うこと。全部の音を弾ききろうとしないこと。軽く弾くべきところは軽く弾くこと。これができるようでいてなかなかできない。低弦は花崎さんや武澤さんがいるので、何事もなかったように涼しい顔してやっているが、他の弦楽器は豊嶋さんと同じようなボウイングをしている人はほとんどいない。堀内麻貴さんに期待がかかるが、残念ながら私の席からは弾いている姿が見えない。次回は、堀内さんの見える場所に席を取ることに。
さて、豊嶋さんが18世紀オケレベルで完璧な演奏をしたおかげで、演奏全体に対する指揮者の要求水準がすごく上がったような気がしてならない。いままでずっと無難に安全運転できたのが、豊嶋さんが入ったら、演奏が刺激的、挑戦的でスリル満点になったような気がしてならない。少なくとも、ブリュッヘンと豊嶋さんの間ではそうであったと思う。しかし、一方で、あまりに挑戦的であるがゆえに、時々アンサンブルが乱れたり、音程がイマイチだったり、というところも見られた。木管が指揮者に合わせるのが大変そうだった。レベルが数段上がったために、今まで気にならなかったようなところが気になりだした、そんな感じだ。
個人的に、木管のアンサンブルに関しては初日、二日目の方が好きだ。オーボエのフアン=マヌエル・ルンブレラス、ファゴットの河村幹子さんなど。
軍隊や時計での演出も面白かった。これだけでも多くの聴衆はかなり楽しめただろう。しかし、軍隊の第4楽章で軍楽隊が派手にやっている裏で、豊嶋さんが弾いている6/8がすばらしかったのである。私はこちらの方に喜びを感じた。そして時計の第4楽章の8分音符が続くところの細かいアーティキュレーション、圧巻は189小節目からのピアニッシモの対位法部分。このアンサンブルは見事というしかない。ブリュッヘンが振って豊嶋さんが弾くからこそできる表現。
こうして考えると、ロンドンセット前半では、Vnやチェロの室内楽的ソロが多く出てくるが、そこを豊嶋さん、花崎さんなどで聞きたかった。
あとは28日のみ。どんなメンバーでどんな演奏を聞かせてくれるのか。今日の豊嶋さんの演奏を聞いて、期待に胸膨らましている。
やはり、プロであれば、豊嶋さんレベルまでできて初めて、モダン楽器による「ピリオド奏法」と呼べるのではないか。付け焼刃の「なんちゃって」ピリオド奏法とは根本的に違うのだ。表面的にでなく、本質的に理解または身体が覚えているのだ。
久々に元気の出る演奏会だった。
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