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2007/01/14

HFJヘラクレス&久々の米良美一

今日は、浜離宮朝日ホールに「ヘンデルフェスティバルジャパン ヘラクレス」を聴きに行きました。実は、私はかなりのヘンデル好きでもあります。以前は、ヘンデルの新譜が出ると片っ端から買っていたものです。今は新譜の数が多いのと、ほぼそろってしまったということもあり、そういうことはなくなりましたが。

さて、売れっ子歌手勢ぞろいということもあり、一般的に見れば地味な演目ながら事前にすべて売切れの人気振りです。私も最後の数枚というところで買うことができました。

とにかく、すばらしい演奏でした。2人のヒロイン、野々下由香里さんと波多野睦美さんがとくにすばらしい。波多野さんは嫉妬するいやな女を情念をこめて演じきっていました。それでもその役同様、悪にはなりきれない、または根っからの悪ではないというところで踏みとどまっていました。野々下さんはそれとは正反対な悲劇のヒロインでありながら他人への思いやりを忘れないかわいくやさしい王女。それに、タイトルロール(ヘラクレス)でありながらなぜか音楽的には脇役の牧野さん、召使の米良さん、息子役の辻さんなどが引き立て役といおうかいい意味でアクセントになっていました。

合唱もなかなかしっかり歌っていましたしとても力強くてかつきれいでした。対位法の曲も各パートの輪郭がはっきりとわかり、ヘンデルの合唱のすばらしさを満喫できました。寄せ集めの合唱団で良くぞここまで統率の取れた演奏ができるものだと思いました。指揮が歌いやすそうにも見えたのですがどうなのでしょう?

オケは、若手中心で軽量級。三宮・江崎コンビが重鎮に見えてしまうくらいです。それでも実に表情豊かで彫りの深い陰影に富む、それでいてキレのある演奏を聞かせてくれました。見かけは軽量級ですが、音楽は各パート二人とは思えない充実振りでした。Vnの渡辺さとみさんの成長が著しいなと感じました。

あれだけの編成、あれだけのソロ歌手をそろえながら、指揮者の渡辺孝さんの統率力はたいしたもの。アンサンブルの乱れもないし、皆さんが同じ方向を向いているというのが非常に強く感じられました。そして冗長な曲でも飽きさせません。まだ海外で活躍ということで、日本で本格的に活動することはなさそうですが、とても楽しみです。

さて、あの有名な米良美一さんの歌をずいぶん久々に聞きました。今回聴きに行った裏の目的は、この米良さんです。もののけ姫がブレークして、BCJを去って以来ですから、何年ぶりになるでしょうか? 今回はヘンデルにしては珍しく英雄役のカウンターテナーまたはカストラートが主役ではない。召使という普段の彼ならあまり考えられない役どころではあり、逆に難しいところがあったかと思います。召使が主役を食ってしまったのではどうにも収まりが悪いということもあるのか、曲もそのことを考えて作られているような気もしますし。第一印象「少しやせたかな」。そして序曲のあとの最初が彼のアリア。彼のコンサートのチラシなどには彼の声の美しさ(美声)をアピールする類のものが多いような気がしますが、彼の持ち味は本来はそうではないような気がしています。人間の醜さ、おろかさ、弱さなども含め、きれいごとではない人間の本質を抉り出すために、時にはわざと醜い声を聞かせることもある。しかし、それが決して下品にはならないし、不快感を与えないそういった声の質とかテクニックを駆使した表情の多彩さこそが彼の持ち味だと思っていますし、だからこそ、BCJでもそういう役回りの多いアルトパートがはまったのではないでしょうか。彼が尊敬する美空ひばりにもそういうただ美しいだけではない、もっと人の心をつかむものがあったかと思いますが、それに似ているのかもしれません。しかし、どうももののけ姫以来、カウンターテナーという声の性格からか本人の意思とは異なるところで彼のイメージが形成されていってしまったところがあるのではないか。そんなことを改めて感じさせるような歌いぶりでした。以前のような神々しい雰囲気、オーラといったものはやや影を潜めたような気がしますが、逆に人間らしさを強烈にアピールするそんな姿が見られたような気がします。彼もまだ若いとはいえ、もはや若々しさや美声だけでアピールする年齢ではない。普通の歌手が経験できないようなすばらしい経験もしてきたわけで、それに人間的な深みが格段に増して歌も円熟してくるはずです。これからどんな風になっていくのか、せっかくこの世界に戻ってきてくださったこともあり、見守っていきたいと思います。

このような大きな企画はなかなか大変かと思いますが、せっかく若手のいい演奏家が育ち、質の高い演奏を聞かせてくれるようになってきたのですから、是非じっくり育ててほしいと思います。

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コメント

朝日新聞の荒井です。いつも興味深く拝読しております。秀美さんの「ジュピター」は予想外の名演でしたが、おっしゃるようにOLCの上手さを想起させるものでもありました。そのOLCは来たる08年の2月の定期で「ジュピター」を演奏します。次はどんな演奏になることやら期待が高まります。

投稿: 荒井正男 | 2007/01/15 11:57

荒井様 いつもコンサートへの「おつとめ」ご苦労様でございます(お互い様ですが)。

08年のジュピターはBig Newsですね!満を持して、ということで期待できますね。そういえば、来年度のOLCの年間券を買った覚えがないのですが、気になるのでオレンジノートに聞いて見ます。

昨日はガットカフェと浜離宮朝日ホールが重なってしまい、少々恨み節です。初めて1階14列1番というところに座ったのですが、一見ひどそうな席なのですが、予想に反してなかなかいい響きだなと思いました。あんなにきれいに聞こえるとは。10列の真ん中あたりよりもいいと思ったくらいです。すばらしいと思えた一因はホールの響きにもあったのかもしれません。

投稿: AH | 2007/01/15 12:19

 ホールの座席位置についてのご感想ごもっともと思いつつお返事しそびれていました。
 以前あのホールの運営に携わっていた者としては「どの席でも素晴らしい響きがします」と言うのが正しい態度なのでしょうが、実際にはあの小さなホールでさえ、座席位置による響きや聞こえ方の違いは相当あります。もちろんひどい響きの場所は断じてないと自信をもっていえますが、残響が豊かに感じられるところから、直接音中心のところまで多種多様なのです。
 お客様にも好みがありますから今ここでこれがベストの座席位置ですとは言えないのはおそらく大きなホールでも同じなのではないかと思います。         さてヘンデルフェスティヴァルでお座りになった位置についてですが、壁際ということで横からの反射音が強くなります。これだけで真ん中の席よりは音が強く感じられると思いますが、その一方であのホールの横の壁にある立ての縞のような凹凸が音を乱反射させ、音がいたずらに硬くなるのを防いでくれています。そうしたことが想像を上回る音の良さ、あるいは生生しさを作っているのではないかと思います。実はこの仕掛けはオペラシティのタケミツメモリアルでも行われています。なにを隠そうこの2つのホールの音響設計は竹中工務店の同じ方が行っているのです。

投稿: 荒井正男 | 2007/01/25 23:43

さすが、ホールを知り尽くしていらっしゃいますね。そんな工夫があったとは。2階正面とはまた違った迫力があってよかったです。

それにしても、浜離宮もオペラシティも竹中工務店とは驚きです。ちょっと前までは本社が浜離宮朝日ホールの隣だったのですよね。オペラシティは実に不思議です。浜離宮の方がやややわらかい響きに感じますが。

投稿: AH | 2007/01/26 00:33

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