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2006/11/21

アーノンクールメサイア

アーノンクールがこの空間と時間をすべて支配した。アーノンクールは神がかっていた。

サントリーホールのメサイア。ついにコンツェントゥス・ムジクスが東京に帰ってきた。このときを誰もが待ちつづけていた。

ハレルヤの前、完全な静寂。ものすごい緊張感、集中力がホール全体に伝わってくる。聴衆も物音一つ立てられない。つまり、恒例の起立など到底できる雰囲気ではなかった。実際、起立をしたくてうずうずしていた聴衆も多かっただろうが、実際には立とうとしたものすら皆無といっても良い。そして「無」の中から静かに前奏が始まる。

そして第二部が華やかに終わった。しかし、アーノンクールは緊張感をまったく解かない。聴衆は金縛りである。拍手もできない。そのまま、静寂の時が流れた。そして、調弦すらせず、静かに第三部を始めたのだ! 彼にとって第二部とは、ハレルヤとはいったい何なのだろう?少なくともお祭りではないように感じられた。彼が敬虔なクリスチャンだという話は聞いたことがない。宗教的な要素はほとんど感じられない。しかし、この第二部から第三部への流れには明らかな意図があるように思える。つまり、テキスト的にいうと十字架につけられてから復活までの一連の流れを止めない。このことは、大変重要である。多くの演奏では、ハレルヤコーラスが終わったところで、何かすべてが終わってしまい、あとはおまけのような雰囲気になりがちである。実際に第3部を聞かずに帰るものも少なくない。何となくリラックスムードが漂ってしまうのだ。しかし、アーノンクールはそれを許さなかった。最後まで聴衆の集中力、緊張感を途絶えさせなかったのだ。

やや早めで切れのいい最後のアーメンが終わる。そこでも沈黙が支配する。しかし、彼が緊張から解き放たれると、今までたまっていたエネルギーが一気に噴出したがごとく、ものすごい拍手の嵐。サントリーホールで今まで聴いた中でこんなにすごいのも初めて。あとは割れんばかりの拍手とブラヴォー!

アーノンクールにはどうしても動的なイメージが付きまとうが、生演奏を聞くと、むしろ、静、または沈黙によって表現し、緊張感を生み出すという特徴が良くわかった。

まぁ、これだけでもこの日の演奏のことが何となく伝わるのだが、コンツェントゥス・ムジクスは、相変わらず上手いんだか下手なんだかよくわからない。アーノンクールのあの要求にこたえるのだから上手いんだろうが、一般的な基準で見れば結構ボロはある。そこがまた愛すべきところなのだが。。。しかし、70年代よりは確実に腕は上がっているだろう。アリスのおばさんも大きめの黒かばんを持って舞台上に登場してくれたし、そこそこは満足。しかし、プログラムになぜか掲載されていた(古参ファンの心を見透かしたように)80年来日時のメンバーのうち、今回残っているのは5人に過ぎない。とりわけ鍵盤楽器のHerbert Tacheziの名が消えたことはとても衝撃だ。ほとんどのメンバーは創立メンバーの娘、息子である。コンマスもチェロのトップもそうである。どうしても親と重ねて見てしまう。

この日のサウンドは、80年代半ば以来の音色である。ヘンデルのOP.6以来のサウンドといっても良い。この頃には、現在のコンマスも含め、主要メンバーの多く(つまりモザイク世代)が参加している。ちょうど新旧交代期にあたる。そしてそのころからもう20年以上が経過した。50年の歴史の半分は現在のスタイルだ。しかし、Das Alte Werk世代にとっては70年代のサウンドこそ本来の姿。やはりそれとはちょっと違う。

さて、22日はバッハの管弦楽組曲や協奏曲などのプログラム。どうしても、60年代、70年代サウンドを期待してしまう。アーノンクールも変なオジサンだったころ。

巨匠も大曲と旅でお疲れのご様子。さすがにこの類の曲はそう簡単に新解釈ができるわけでもないので、若き日のことを思い出しながら、楽しんで演奏してほしいなと思う。明日の聴衆にはそれを期待してやってくる古参ファンも少なくないだろう。H.Tacheziのオルガンを聞けないのが非常に心残りではあるが。

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コメント

こんにちは。以前から毎回楽しく拝見させていただいております。東京公演の臨場感あふれる描写に、京都公演の思い出がまた蘇る思いでした。

サントリーホールではハレルヤ後にすばらしい沈黙があったようで、、うらやましいです。あの究極の柔らかさのあとに拍手をするのは野蛮だったかもしれません。そしておっしゃるとおり、まさにピンと澄み切った空のようにくっきりとした第3部が続く…。拍手が巻き起こっ(てしまっ)た京都でも、感動の頂点をハレルヤにしか見出せないのは勿体無いと言わんばかりの強い説得力がありました。伝説的な公演と言ってもけっして言い過ぎではなかったと思います。

私は80年代のCMWのほうに親しみを覚えますので、その意味での「変わらなさ」に安心感を覚えたクチでした^^;; タヘツィ息子氏のチェロ、素晴らしかったですが、親父殿の鍵盤が聴いてみたかったのも(おっしゃるとおり)また事実であります。。
本当はバッハプログラムがいちばん聴いてみたかったですが、伝説のアンサンブルに接することができたというだけでよしとしようかと思います。

TBさせていただきました。今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: Sonnenfleck | 2006/11/22 12:25

Sonnenfleckさん

21.22.23と3日連続でCMWです。22日も拍手のためらいがありました。この日は往年のなつかしのメロディが目白押し。カンタータ組曲には70年代に過ごした青春を思い返し、じ~んとくるものがありました。管弦楽組曲第3番は80年代サウンド。第1番は70年代の名残を残した80年代サウンド。再録の頃から基本的には変わっていないですね。80年代にはすでに70年代を懐かしんでいたので、CMWには違いないのですが、80年代サウンドには何となく違和感も。札幌が終わったら書こうと思います。相当お疲れのご様子なので、少々心配なのですが、最終日ですし。

投稿: AH | 2006/11/23 02:54

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(承前)演奏について。 全般的に、装飾が多いなという印象はありませんでした。ダ・カーポ・アリアでも最近の流行のようにこれ見よがしの装飾を付けることをせず、しごく当然のようにストイックに繰り返します。 激しいアクセントが付くのは、歌詞の修辞において必要に迫られた箇所。全体としてはゆったりと構えたテンポ設定です。ラテン諸国のアンサンブルとは明らかに違う価値観に基づいているのは、やはりアーノンクールの誇りなのだろう。 コンマスのヘーバルトや、その隣に座るアリス・アーノンクール夫人、Fgのトゥ... [続きを読む]

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2006年11月21日(火) サントリーホール 指揮:ニコラウス・アーノンクール 管弦楽:ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス 独唱:ユリア・クライター(S)、ベルナルダ・フィンク(A)、ヴェルナー・ギューラ(T)、ルーベン・ドローレ(Br) 合唱:アーノルト・シェーンベルク合唱団 曲目: ヘンデル/オラトリオ『メサイア』 ... [続きを読む]

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