雅明ジュピター
先日ご紹介した鈴木雅明指揮東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のコンサートに行ってきました。BCJでは最高の場所としてS席になっているオペラシティ大ホールの3階正面です(今日はA席)。BCJ定演の常連さんたちがこの日も来ていました。
なんで、このオケなんだろう?とサッパリわからなかったのですが、プログラムに掲載されていたメンバー表を見て納得。BCJトランペットの島田さんをはじめ、しばしば古楽器オケに登場する人たちが何人かいるではないですか。Vn、Vlaにはいませんが。
それはともかく、ちょっと心配ではあったのですが、雅明さんのデビューとしては大成功の部類にはいるのではないかと思います。ジュピターもエネルギッシュで熱のこもった演奏で喝采を浴びていました。はたして、普段BCJを聞いていない一般客にはどのように感じられたのでしょう?衝撃は受けたのでしょうか?
私が個人的に特に気に入ったのは、ジュピターではなく、C.PH.E.Bachのシンフォニアです。めったに演奏することはありませんが、雅明さんにC.PH.E.Bachというのは結構合っているのではないかと思っています。チェンバロ協奏曲など是非聴いてみたいですね。もちろんソロ曲でも良いのですが。そんなことなので、シンフォニアを聞いても全然違和感がないどころか、「らしさ」をかなり強調していたように思えます。終楽章のPrestoは今日初めて気付いたのですが、Mozartの宗教曲を思わせる曲です。否、逆にMozartに大きな影響を与えたのではないかとすら思えます(多分間違いない)。似ているなと思ったのはモツレクのDomine Jesuです。急な場面の切り替わりや、21小節以降のバス(弦すべてのユニゾン)の音型が、C.Ph.E.Bachの終楽章にソックリなのです。Bachでは、バスだけが細かい音符を弾き、Vn2本はあたかも合唱のように絡みます。まるで、雅明さんが「モツレクも是非聞きにきてください」と呼びかけているよう(私の勝手な想像ですが)。とにかく一番面白かったです。
オケは、古楽奏法を取り入れていましたが、楽器はティンパニ以外はすべてモダン。トランペットやホルンはひょっとしたら、と思ったのですが、やはりモダンでした。個人的にはちょっと残念。まぁ、短期間でよくやったなとは思いますが、Vnはメッサ・ディ・ヴォーチェの音を収めるやり方がまだこなれていなくて、どうもフレーズがブツ切れになってしまう嫌いがあって、特に前半の2曲は残念でした。膨らますことに気持ちがいってしまっているんでしょう。また、古楽器のように音色が変わりきれないでいつも健全な明るい音になってしまうのと各パートの輪郭が余りはっきりしなかったというのも気になりました。子音または倍音の違いなのでしょうか。2ndやVlaと1stの絡みがよくわからなくなってしまうので、面白さがよくわからなくなってしまいます。BCJメンバーでやったらもっと表情豊かで全然違うでしょうね、などと思いながら聞いてしまいました。
ジュピターに関しては、C.Ph.E.Bachの次に演奏したのがよかったのかノリノリで全体的にテンポは速め。終楽章の有名なテーマの表情はかなり強調(特にスラーつきの場合)。さすがに弾きなれているらしく、他の曲に比べると弦のぎこちなさはかなり解消。
前の記事で、雅明さんの管楽器の処理に注目、というようなことを書きましたが、正直、古楽器系の指揮者にしては管楽器セクションが非常におとなしいなと言う印象を受けました。オーボエは相当奥ゆかしいのか全然音が抜けてきません。フルートと比較しても音が小さかったです。和声や音色の変化も歌いまわしもよく聞き取れませんでした。クラシカルオーボエの音に慣れていると、何だか物足りない。音色を弦と溶け合わせようとしてあういう吹き方をしたのかもしれませんが、クラシカルなら思い切り吹いても音色は溶け合いますからね。Mozartの木管セッションてとても魅力的に思えるのですが。また、ホルンもとても上品。古楽器系のホルンというと「炸裂する」という印象が強いのですが、とてもやわらかく吹いていたように思えます。特にジュピターの終楽章でそれを感じました。19小節目以降のホルン、22小節目のオーボエがもう少し聞きたかったです。トランペットも和声を淡々とこなしているという感じであまり目立ちませんが、これはMozartの趣味ということもあるので仕方ありません。(BCJカンタータ33巻のBWV130で島田さんが大活躍しますが、つい、そんな先入観で聞いてしまうもので・・)
雅明さんが敢えて管楽器を抑えたのか、それともこれが彼らの持ち味なのかはわかりませんが、古楽器慣れしているとおとなしいなと思ってしまうのですね。
さて、そんな中でも、最高の名演を聞かせてくれたのがティンパニです。楽器が古いタイプで木のバチを使っていたこともあるのでしょうけど、とにかく音はよく抜けてくるしキレがいいし、とにかく音色や音量などの変化を使って表情が豊か。こんなに素晴らしい日本人のティンパニ演奏を聞いたことがありません。感激です。オケ全体の表情の変化よりティンパニ一人の表情の変化の方がはるかに豊かなのです。彼には、もっと大きな拍手が与えられられてもよかったのではないかと思います。それだけに管楽器セッションとのバランスが・・・。また、どうも一体感が・・・。
さて、全体的に気になったのが、フレーズの出だし、もっと言えば場面が変わり、一瞬止まったあとの出だしでいつもフライングする人がいて、しばしばアンサンブルが乱れました。理由はわかりませんが、フライングがあると、せっかく雅明さんがつくっているタメといおうか沈黙が壊れてしまい、次の部分のエネルギーが半減してしまい残念でした。装飾音がかなりそろっていないのも気になりました。装飾音には単なる飾りではなくて、和声的な意味もあるのですが、それがわからなくなってしまっています。前の拍に出るのか拍にはめるのかも意思統一されていないように感じられるところがありました。
まぁ、つい半月前に自分でもやった曲なので、ついつい色々と気になってしまって・・。
全体としては満足できる演奏会でしたし、雅明さんの指揮ぶり、やろうとしたことには十分好きになれましたが、やはりいつもの気心知れたメンバーで古楽器で演奏してほしいな、と改めて思いました。やはりちょっとやったくらいでは、古楽のスペシャリストたちのようにはいかないのですね。
さて、次は1/11の秀美さんのジュピターです。果たしてどんな演奏になるか。
その前にアーノンクール&ウィーンフィルというのもあるな。ジュピターではないですが。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント