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2006/11/04

ヨハネと石川和彦

今日は、東京バロック・ゾリステン合唱団というところのBachヨハネ受難曲を聴きに行った。かなり年季の入った合唱団で、上手い下手は別として、よくこの難曲を歌いきったなという感じ。とにかく、感動した。最後の「Herr Jesu Christ,~」のところでは思わず目頭が熱くなった。技術的にいかに難があっても、気持ちがこもっていれば、バッハの音楽は聴く人を感動させることができるんだな、ということを実感。

残念だったのは、イエスの最後の言葉「Es ist vollbracht果たされた(成し遂げられた)」を歌っている時に、プログラムをめくる紙の音がものすごくたくさんしたこと。(ページは静かにめくりましょう)とか書いておくか、こんなところでめくりが必要ないようにしてほしい。もちろん私はその前にめくっておいたし、音を立てずにめくるのは慣れているが、大多数の客はそうはいかないだろう。

と、アマチュアのことはこれくらいにしておいて、歌手陣及びオケについて少々。エヴァンゲリストの及川さんは、まさにこの人ならではの持ち味がぴたっとはまった感じ。いや~、恐れ入りました。何度もご一緒させていただいているが、こんなにバッハがはまるとは。指揮とバスの大井さん、大活躍しすぎ。スゴすぎ。あの合唱団を良くぞここまで、そして歌も最高。是非、BCJでもソロを歌ってほしい。それにしても、バスのアリアと合唱が同時に出てくるところが多かったのだが、さすがに指揮しながら歌うわけにも行かず、果たして合うかと思ったら見事に合った。野村さんは、必ずしも本調子ではなかったようにも見受けられたが、期待を裏切らず「らしい」装飾を入れてくれたので、よしとしよう。

オケは、短母音や子音にヴィブラートかけるのをやめてほしい。特に語尾の子音は勘弁。「Wohin」の「i」「n」とか「t」とかにまでヴィブラートが。せっかくの合唱の努力が水泡に。音が大きくて、世間一般的に言う美音をひけらかしても、歌詞にあっていなければ。その歌詞にふさわしい音色や表情がなければ。。。。それに他の奏者の表現をもっとよく聴いて他の人を生かすアンサンブルをしてほしい。

そんな中で、一つ一つの音の意味をきちっと考えて、ちゃんとやるべきことをやって、ノリがよくて表現力豊かだったのが、2nd VNの石川和彦さんとオーボエの川澄萌野さん。目立たないが他の奏者とは明らかに古楽的意味においてレベルがまるで違う。気合も違う。石川さんの表現をもっと演奏全体に生かすべきだと強く思った。川澄さんは、モダン楽器でありながらピリオドのオーボエ・ダ・カッチャのような表情を上手く出していた。フルートはヴィブラートを抑えていたのはよかったし、冒頭合唱でオーボエとのユニゾンがきれいにそろっていたのがよかった。かつて何度も一緒にやってもらったガンバの長谷川敦子さん(あっちゃん)の演奏は久々に聴くが元気そうで何より。大役をそつなくこなす。オルガンは楽器がガルニエのように思えたがどうなのだろう。時々、BCJでも聞かれる強烈な音が耳に入ってきて、劇的な効果を生み出していた。ただ、チェロと呼吸が合っていなかったな。タイミングだけで合わせようとしていた感が。チェロは大健闘。ヴィブラートを結構かけていたが、これはアーノンクールもそうだから許そう。語尾の子音にはヴィブラートかけていなかったし。音程が平均律でなくちゃんと取れていたのでものすごく聞きやすかった。ただ、ニワトリの鳴き声はもう少しそれらしく強調してほしかった。あそこは、ヨハネには本来ないのをわざわざマタイからもってきたところなのだし。

全体的にオケは各人に任せる感じだが、もう少し全体としての方向性を合わせてほしかった。そして微妙な表情、陰翳をもっとつけてほしかった。コラールが単調になってしまうのは考え物だ。

さて、前置きが大分長くなったが、肝心の石川和彦さん。彼の意気込み、すばらしい音楽的個性、表現力を受け止めて上手く生かせる共演者はいないものか。彼が自然体でのびのびと演奏できるそういう場はないのか。どんな相手であれ、人前で演奏する機会があること自体はよいことであるが、もっと彼のよさを聞き手にアピールできる場が必要だとつくづく思う。ハッキリ言って若手(学生レベル)では、海外で磨かれた彼の音楽はなかなか受け止めて返しきれないと思う。やはり、オケの中ではなく、自分で企画してソロリサイタルをやってほしい。または小規模なアンサンブルをやってほしい。例えば、大西律子さんあたりとデュオをやったらどうなるだろう?赤津眞言さんなども面白いかもしれない。超ベテランではタイプは違うが小野萬里さんとか。個性的でイマジネーションに富んだ人とやらせてみたい。または正反対に、一見平凡でもの静かなのだが、実はものすごく懐が深い演奏家、例えば先日来日したフォルテピアノのHooglandのようなタイプ。そういう機会があれば、音楽プロモーターや他の演奏家の目に止まるかもしれない。

とにかく、この才能をこのまま埋もれさせてはいけない。もっと、多くの人に彼の良さを知ってもらわなければならない。と、古楽ファンの一人として心から思う。

むろん、彼には彼の考えがあるのだろうし、私がファンとしての個人的希望を超えて何かを求めることも決めることもできないのだが。いまなら、世話をしたアマチュアたちが色々と力になってくれるだろう。

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