CMWの50年
いよいよN.Harnoncourtとその音楽的家族であるConcentus Musicus Wien(CMW)が26年ぶりにやってきます。それにあわせて、アーノンクールとコンツェントゥス・ムジクス―世界一風変わりなウィーン人たち という書籍も発売されました。アーノンクール夫妻のみならず、古参メンバーのエピソードや話も伝えています。我々の世代の古楽ファン(1970年代の極めて古楽オタク的な世代)にとっては、CMWのメンバー一人一人の名前が懐かしく思い出されます。というのも、当時としては珍しく、CDにはメンバー表と使用楽器が必ず記載されていたからで、カンタータ大全集などは第何番の第何曲というレベルまで記載していたので、名前を見ただけで「この人はカンタータ第何番の第何曲に出ていた人だ」とかわかってしまうのです。そしてその演奏のことを思い出し、アーティキュレーションを忠実に再現できます。そんな古楽オタクといおうかアーノンクールオタク(そもそも当時は、「アーノンクール」という表記さえ一般化しておらず、LPジャケット・解説も、FM番組も人によって全部読み方が違った。「アルノンクール」「ハルノンクール」「ハルノンコールト」など。LPの解説者は指揮者の情報がほとんどない中で、延々と名前の読み方を解説していた!)の心理を見透かすかのように、この本の巻末には、過去の出演者の名前がずらっと列挙してあります。真のアーノンクールオタクは、必ず、もれがないかどうかを自分が持っているLPやCDでチェックするはずです。また、ゲスト扱いの人でも名前が入っている人(LeonhardtやBruggen)と入っていない人をどこで区別しているのかを分析し始めるはずです。残念なのは、最近のDHMにはメンバー表がついていないことと、Teldec末期のCD廉価版ではしばしばメンバー表が省略されていることです。
肝心の中身ですが、やはり楽器収集の苦労というのが一番印象に残ります。ガラクタ同然の状態で物置に放置されている楽器をよくみたらとんでもない名人の楽器だったとか。私が持っているモダンもそんな楽器の一つだったので、状況はとてもよくわかりますが、さすがヨーロッパだと思いました。E.HruzaとJ.d.Sordiの話は、いかにも、という感じで笑えます。LSも、あのスースーした演奏の影には、こんなエピソードがあったのか。
そして、室内楽編成からオーケストラ編成への変わること、Harnoncourtがモダンオケを振ることについての複雑な感情、CMWがジュピターを演奏するまでの道のりなど、古楽をやる人ならだれもが潜り抜けなければならない様々な問題点。
さて、この本には、著者にとって印象に残る録音とHarnoncourtへのインタビューが収録されたCDがついています。CDそのものは大部分持っているのですが、その選び方がなんともいえずいい。特に膨大なカンタータ大全集から選んだのが、第68番のソプラノのアリア。N.HarnocourtがVioloncello Piccoloを弾いている曲で、曲の最後にVn,Obが入ったリトルネロがついている。もちろん、VnはAliceでObはシェフトライン。これは私にとっても人生を変えた録音であり、全45巻の中でもっとも好きな曲でもあります。もしこの録音に出会わなければ、私は古楽器をやっていなかったでしょう。そんな曲を著者であり古参メンバーであるM.トゥルコヴィッチが選んでくれたというのはとてもうれしいことです。
この本とCMWについて語り始めたらきりがありません。11月23日には、メンバーはほとんど変わってしまい、26年前の味わいというのはもうないかもしれませんが、昔ながらのレパートリーで登場します。楽しみです。
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コメント
20年以上前の夏のある日、ピアリステンガッセのとあるアパートの、呼び鈴に書かれた表札の前で、ここがそうなんだと、ただたたずんだ経験のある私には、大変興味深い本でした。AHさま、本のご紹介ありがとうございました。
古楽に入るきっかけではありませんでしたが、カンタータで印象深いのは、第21番です。あのシンフォニアも、アリス夫人とシェフトラインの絶妙な演奏だと思います。
訳文に若干疑問な点もあるのが残念ですが、黙って裏表紙にリストが載せてあるなど、編集の方のセンスが光りますね。チャールズ・メドラムは略奪婚?でうらまれているのか、本文中に記載がありませんでしたね。
投稿: 貧乏伯爵 | 2006/10/23 10:21
21番も秀逸ですね。
>チャールズ・メドラムは略奪婚?でうらまれているのか、本文中に記載がありませんでしたね。
私の手許にある膨大なメンバー表からは、彼の名前を見つけることはできませんでしたので、CMWの録音での出番はなかったのでは。Ingrid Seifertは、Anita Mittererに関する記述(P.166)のなかで、「一人はドイツに移住し、もう一人はイギリスに行ったので」という記述のうちの一人でしょう。もう一人は恐らくVeronika Schmidtではと思われます。
それより気になるのが、Kurt Hammerの名前が本文に出てこないこと。さすがに巻末一覧には載っていますが、あれほどの古参でありながら。テディ卿より重要なのに。それと、巻末メンバー表の漏れとしては、有名なMicaela Comberti。Ingrid Seifertと同じ時に出ていたのに。。。
投稿: AH | 2006/10/24 01:11
チャールズメドラムは幻だったかもしれません。確か水上の音楽に参加していたように思ったのですが。
もうひとり、これも記憶で申し訳ないのですが、夭逝したアルバンベルカルテットのセカンドバイオリン、Klaus Maetzlがロ短調ミサ(旧)に参加していました。これは確かだと思います。解説書に写真もあったはずです。演奏家リストの上のほうに名前が出ていたので次代のコンマス候補だったのではと推察していました。本書中で言及がなかったのは少々さびしい感じがします。
それにしても、夭逝演奏家が多いですね。
投稿: 貧乏伯爵 | 2006/10/25 11:59
またまた記憶違いです。すみません。クラウス・メッツル教授を、死去させてしまいました。謹んで訂正いたします。
投稿: 貧乏伯爵 | 2006/10/25 13:31
水上の音楽はFriedrich(Fritz)Hillerです。同じ頃録音されたセシリアにもでています。これにはW.Mollerも出ていますが彼は巻末メンバー表に載っていましたね。ちょうど、Hermann Hobarthのあとですね。恐らく事故死された後だと思います。
投稿: AH | 2006/10/25 13:46