« OLC 大胆な協奏交響曲 | トップページ | アーノンクール »

2006/07/01

雅明さん、インヴェンションを解体する

今日は、オペラシティで鈴木雅明さんのレクチャーを聞いてきました。題して「インヴェンションを解体する」。インヴェンションとは、もちろんバッハのインヴェンションとシンフォニアのこと。これをMusica Poeticaの考え方から解き明かそうというのです。

そもそもインヴェンションとは何かから始まり、バッハが何を意図してこのような曲を書き、名称を付したのかということを、Musica Poeticaから解説。そして、後半は、実際に曲がどのように書かれているかを、フリーデマン・バッハのための初期版にかかれた順序(後のものとは配列が違う)にそって一つ一つ解説。さらに演奏。シンフォニアでは、カンタータの素材との類似性にも言及。抽象的な練習曲と見られがちなこれらの曲に、カンタータと同様のアフェクトが存在することを証明。

非常に印象に残ったのは、これらの理論が、単なる理論で終わらず、それが演奏にどう結びついてくるかということを実際に聞かせて見せてくれたこと。そういうことを知っているだけで、その曲がどんなアフェクトを持っていて、どのように演奏すべきかということについて大きなヒントとなる。そして、それを知らなければ、この曲は本当に指の訓練のためだけのつまらない練習曲であって、音楽ではなくなってしまうのである。

なぜ、多くの子どもたちが、バッハのインヴェンションとシンフォニアを弾かされて、バッハ嫌いになるのか。単に指が難しいだけで、その音楽の持つ意味、そこに音楽としての面白さ、豊かさを見出せず、何も表現できないということもあるのではないか。そして、バッハがどのような意図でこの曲を書いたのか、何を生徒に身につけさせなければならないのか、それをきちっと理解して、教えようとしていないからではないか。ちゃんと教えるべき事を教え、音楽としての素晴らしさを感じ取れるような教え方をすれば、もっとバッハの魅力を若者たちもわかってくれるはずだ。この日の「青少年のための」というタイトルには、そんな思いがこもっているようにも感じました。そこには、まさに、雅明さんの「教育現場」が存在していました。

さて、今日は、芸大の雅明さんの生徒が出演し、演奏しました。人によってかなりばらつきがありましたが、雅明さんの説明をきちっと理解して、それを実際にやって見せることは、芸大の学生でもかなり難しいのだと感じざるをえませんでした。アーティキュレーションを明確にするような指使いをすることで、意味をはっきりさせるということを実践しているはずなのに、なぜか、アーティキュレーションがほとんどなく、淡々と何となくきれいに流れるピアノのような演奏をする生徒、アフェクトが良くわからないような演奏をする生徒、弾くので精一杯の生徒、など、この日の説明のようなことが身についていないとどうなるかという見本のような演奏でした。それに対して、解説をしながら、ワンフレーズだけ弾く雅明さんの一つ一つに明確な意思を感じる演奏。そしてそれを可能にするタッチ。たった一つの音を出すだけでも、音のクオリティが生徒とは比べ物にならない。チェンバロも弾き方によってこんなに音質が違うのか。

「バッハの書いたとおりに弾いているだけ」といいながらも、ものすごく説得力がある個性の強い演奏がありますが、きちっとした理論的な裏付けに基づくだけで、こんなにも説得力があり、かつ、表情豊かな演奏が出来るものかと改めて感じました。

さて、話は変わりますが、カンタータのような歌詞を持った具体的な音楽の経験を抽象的な器楽曲に生かすという点で、バッハのヴァイオリンとチェンバロのソナタ第6番の初期稿に注目してみたいと思いました。この日も取り上げられたト長調の曲が持つ特徴を持っており、シンフォニアのある曲と同じテーマを持つ曲、カンタータのアリアに転用された曲があり、パルティータ第6番に転用された曲(ガボット)がある。そして、最後に第1楽章にまた戻る、という、まるでロ短調ミサのような構成。6曲の中では最もわかりやすく親しみやすくありふれた曲のようにも思えますが、初期稿は実に個性的で、創意工夫に富んだ意欲作。今日のお話をもとに、この曲を解き明かして演奏してみたい。そんな気持ちになりました。

とにかく、雅明さんのレクチャーは長くていつも時間オーバーですが、もっと聞きたいと思わせる面白いものです。

|

« OLC 大胆な協奏交響曲 | トップページ | アーノンクール »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/32419/10752015

この記事へのトラックバック一覧です: 雅明さん、インヴェンションを解体する:

« OLC 大胆な協奏交響曲 | トップページ | アーノンクール »